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2011年8月20日土曜日
自治会費に上乗せの寄付金徴収、違法の判決確定(最高裁)2008平成20年4月3日
自治会費に上乗せの寄付金徴収、違法の判決確定(最高裁)
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自治会費に募金を上乗せして徴収するとした総会決議は違法として、滋賀県甲賀市甲南町希望ケ丘の住民男性5人が、所属する自治会を相手に、決議の無効確認などを求めた訴訟で、
最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は平成20年4月3日、
自治会側の上告を棄却する決定をしました(時事通信2008/04/03-19:42)。
これで、「徴収は思想・信条の自由(憲法19条)を侵害する」として決議を無効と認め反対住民側の逆転勝訴の二審大阪高裁判決が確定しました。
大阪高裁は昨年8月24日、決議による募金徴収は事実上の強制で、社会的に許容される限度を超えており、公序良俗に反すると判断し、「思想信条への影響は抽象的。上乗せ徴収には必要性、合理性がある」とした一審判決を取り消していました。
1.まずはこの事案の経緯を説明しておきます。
「滋賀県甲賀市甲南町の「希望ケ丘自治会」(地域自治体・約940世帯)は、
従来、赤い羽根共同募金や日本赤十字社への寄付金などを各世帯を訪問
して任意で集めてきた。
このように、この寄付金は班長・組長らが訪問して集めていたが、約940世帯ある上に高齢者も多く、各家を1軒ずつ回って徴収するのは負担が大きいこと、しかも協力を得られなかったり留守だったりするなどでより負担が重くなったため、班長になるのを避けようと休会する人もいた。
そこで、集金にあたる班長・組長らの負担を解消しようと2006年3月の定期総会で、
年会費6000円の自治会費に
募金や寄付金など2000円分を上乗せ(増額)して徴収すること
を定期総会で賛成多数で決議した。
●2006年3月総会議決=6000+2000=8000円(上乗せ議決)(強行徴収)
その決議では、増額分の会費は、全額、地元の小中学校の教育後援会、赤い羽根共同募金会、緑化推進委員会、社会福祉協議会、日本赤十字社及び滋賀県共同募金会への募金や寄付金に充てる、としていた。
これに対して、原告らは「寄付するかどうかは個人の自由」と一律徴収に反対し、
翌月に「本件決議は思想・良心の自由等の侵害を理由として決議の無効確認等を求めて訴訟を起こした。
●2006年4月大津地裁に訴訟開始(決議の無効確認)
原告代理人の吉原稔弁護士
1審判決(大津地判平成18・11・27判例集未搭載)は、
本件募金対象団体が政治的思想や宗教に関わるものではなく、
寄付の名義は原告らではなく「希望ケ丘自治会」であることからも構成員の思想信条に与える影響は直接かつ具体的なものではなく、また負担金額も過大ではない、として本件決議が公序良俗に反しないとしていた。
●2006年11月27日大津地裁原告敗訴
原告代理人の吉原稔弁護士
これに対して、大阪高裁平成19年8月24日判決は、
募金及び寄付金は、その性格上、「すべて任意に行われるべきものであり」班長や組長の集金の負担の解消を理由に、これを会費化して一律に協力を求めようとすること自体、
「希望ケ丘自治会」の性格からして、「様々な価値観を有する会員が存在することが予想されるのに、これを無視するものである上、募金及び寄付金の趣旨にも反する」としました。
そして、募金及び寄付金に応じるかどうかは、「各人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるものであり」、会員の任意の態度、決定を十分に尊重すべきだとし、「その支払を事実上強制するような場合には、思想、信条の自由の侵害の問題が生じ得る」。
●大阪高裁原告勝訴2007年8月24日
原告代理人の吉原稔弁護士
■ごみステーションを利用させない圧力自治会問題■
会費を納付しなければ脱会を余儀なくされる恐れがあったが、自治会未加入者はごみステーションを利用できないなどの不利益を受け、脱退の自由を事実上制限されていた。したがって、本件募金の徴収は、「会員の生活上不可欠な存在」である「希望ケ丘自治会」により、事実上強制されるものであり、「社会的に許容される限度を超える」と判示して、1審判決を取り消していました。」(判例セレクト2007(有斐閣、2008年)6頁)、朝日新聞4月4日付滋賀県版など参照)
■強制募金徴収の風習■
もっとも、訴訟の判決が2008年4月3日に(最高裁で)確定したのを受け、
原告代理人の吉原稔弁護士は、大津市内で会見し、県内ではほかにも募金を強制的に徴収する同様の事例が多く見受けられるとし、「判決が与える影響は大きいだろう」と話しています
(朝日新聞)。
おそらくは、全国では、事実上の強制がまだまだ多いのだと思いますから、この最高裁決定は、全国の地域自治体に対して影響を与えるものと思われます。
赤い羽根共同募金は全国各地の社会福祉法人「共同募金会」が運営し、
集まった資金は地元の福祉団体などに分配されている。
所管の厚生労働省によると、
昨年度の募金総額は約220億円。各地の自治会などが集めた戸別募金が7割を占め、街頭募金は2%に満たない
現金=220億円=自治会戸別募金が7割の集金力+街頭募金2%
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■■報道記事を幾つか。高裁と最高裁の両方の記事を両方引用します■■
(1) 大阪高裁について触れた記事
A:朝日新聞平成19年8月25日付夕刊12面(東京版)
「募金強制徴収は「違法」、住民が逆転勝訴 大阪高裁
2007年08月25日13時39分
赤い羽根共同募金などを自治会費に上乗せして強制的に徴収するとした決議は違法だとして、滋賀県甲賀市の住民5人が地元自治会を相手取り、決議の無効確認などを求めた訴訟の控訴審判決が24日、大阪高裁であった。大谷正治裁判長は「決議は思想、信条の自由を侵害し、公序良俗に反する」と判断。原告の請求を棄却した大津地裁の一審判決を取り消し、決議を無効とする逆転判決を言い渡した。
判決によると、甲賀市甲南町の「希望ケ丘自治会」(約900世帯)は赤い羽根共同募金や日本赤十字社への寄付金などを各世帯を訪問して集めてきた。だが応じない世帯もあり、昨年3月、年6000円の自治会費に募金や寄付金など2000円分を上乗せして徴収することを定期総会で決議。住民5人は「募金は自由意思によるべきだ」と訴え、翌月に訴訟を起こした。
判決は、自治会が募金を一律に徴収することは「事実上の強制で、社会的な許容限度を超えている」と指摘。自治会決議について「募金に対する任意の意思決定の機会を奪うもの」と述べ、原告の思想、信条の自由を侵害して民法上の公序良俗に違反すると判断し、「徴収には合理性がある」とした昨年11月の一審判決を取り消した。
赤い羽根共同募金は全国各地の社会福祉法人「共同募金会」が運営し、集まった資金は地元の福祉団体などに分配されている。所管の厚生労働省によると、昨年度の募金総額は約220億円。各地の自治会などが集めた戸別募金が7割を占め、街頭募金は2%に満たない。
厚労省の担当者は「共同募金は地域の助け合いであり、あくまで自発的なもの。強制にならないよう注意していただきたい」と話している。」
この記事には、注目すべきコメントが出ています。
「厚労省の担当者は「共同募金は地域の助け合いであり、あくまで自発的なもの。強制にならないよう注意していただきたい」と話している。」
要するに、厚労省は、共同募金は「自発的」すなわち任意に行うものであって、強制しないでほしいとしているのです。そうなると、厚労省側としては、共同募金の強制徴収決議は認められないと理解していることになります。
B:京都新聞(Kyoto Shimbun 2007年8月24日(金))
「募金の上乗せ徴収「違憲」 甲賀・自治会費訴訟で高裁判決
赤い羽根共同募金など募金や寄付金を自治会費に含めて強制徴収するのは違憲などとして、滋賀県甲賀市甲南町の住民5人が、加入する希望ケ丘自治会に、募金や寄付金分を会費に上乗せした決議の無効などを求めた訴訟の控訴審判決が24日、大阪高裁であり、大谷正治裁判長は「決議は憲法の思想、信条の自由を侵害し、民法の公序良俗に違反する」と一審判決を破棄し、決議を無効とする住民勝訴の逆転判決を言い渡した。
大谷裁判長は「募金は任意で行われるべきで、強制されるべきではない」と判断し、「集金の負担解消を理由に会費化すること自体、多様な価値観の会員がいることを無視し、募金の趣旨にも反する」とした。憲法は私人間の問題に適用されないとしながらも、実質的に違憲と指摘した。
判決によると、自治会は赤い羽根共同募金や小中学校の後援会への寄付金などを住民から任意で集めていたが、昨年3月の総会で年会費を6000円から8000円に値上げし、増額分を募金や寄付金に充てる決議をした。
●2006年11月に大津地裁は「自治会は任意団体で、私人間の問題である」として棄却した。
①原告の一人、○○○○さん(68)は「強制徴収はおかしいと思っていても、福祉や善意のためと言われると意見しづらい。判決で、ようやくもやもやが晴れた」と喜んだ。
②自治会長の△△△△さん(71)は「約940世帯ある上に高齢者も多く、各家を1軒ずつ回って徴収するのは負担が大きい。裁判所は現状を分かっていない」と話した。
この記事で注目すべき点は、自治会長さんの声です。
「約940世帯ある上に高齢者も多く、各家を1軒ずつ回って徴収するのは負担が大きい。裁判所は現状を分かっていない」と話した。」
任意で行っていた募金を会費化(強制徴収)にしたのは、集金に当たる班長らの負担が大きいという現状があるからであって、決議によって軽減された負担が、決議が無効とされてしまったらまた負担が復活してしまう。その現状を裁判所を理解してほしいということです。
■憲法の私人間問題■の地裁・高裁判断・非適用説・間接適用説
もう1点は、最近は、私人間効力について触れていない判例が多いのですが、
地裁と高裁ではこの問題について触れていると思われる点です。
「大谷裁判長は「募金は任意で行われるべきで、強制されるべきではない」と判断し、「集金の負担解消を理由に会費化すること自体、多様な価値観の会員がいることを無視し、募金の趣旨にも反する」とした。憲法は私人間の問題に適用されないとしながらも、実質的に違憲と指摘した。
判決によると、自治会は赤い羽根共同募金や小中学校の後援会への寄付金などを住民から任意で集めていたが、昨年3月の総会で年会費を6000円から8000円に値上げし、増額分を募金や寄付金に充てる決議をした。
2006年11月に大津地裁は「自治会は任意団体で、私人間の問題である」として棄却した。」
大津地裁は、「私人間の問題である」として棄却していることからすると、憲法の人権規定の私人間への適用を全面的に否定するという非適用説を採用したようにも読み取れます。そうなると、さすがに通説判例に反する見解を採用している以上、大阪高裁はこの判断を否定する必要があります。ですので、大阪高裁は、「憲法は私人間の問題に適用されないとしながらも、実質的に違憲」であると明示して、通説判例である間接適用説(他の法律の規定を通じて人権規定の趣旨が適用されるとするもの)を採用したようです。
(2)最高裁について触れた記事
C:読売新聞平成20年4月4日付朝刊30面
「自治会費に上乗せの寄付金徴収、違法の判決確定
「赤い羽根共同募金」や小中学校への寄付金などを自治会費に上乗せして徴収するのは思想・信条の自由を保障した憲法に違反するとして、滋賀県甲賀市甲南町の「希望ヶ丘自治会」の会員5人が、同自治会を相手取り、会費の増額決議の無効を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は3日、自治会の上告を棄却する決定をした。
被告自治会側の敗訴が確定した。
1、2審判決によると、希望ヶ丘自治会は2006年3月、年会費を6000円から8000円に値上げし、増額分を寄付金に充てることを決議したが、
原告側は「寄付は個人の意思に委ねられるべきだ」と主張していた。
1審・大津地裁は請求を棄却したが、
2審・大阪高裁は「増額した会費の徴収は事実上の強制で、社会的に許される限度を超えている。増額決議は思想・信条の自由を侵害し、公序良俗に反する」と、増額は違法と判断していた。
(2008年4月3日20時25分 読売新聞)
D:毎日新聞 2008年4月4日 大阪朝刊
「募金:自治会費に上乗せ、強制徴収は無効 2審判決が確定--滋賀
赤い羽根共同募金などを自治会費に上乗せ徴収することを決めたのは不当として、滋賀県甲賀市の住民5人が自治会を相手に決議の無効確認などを求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は3日、自治会の上告を退ける決定を出した。住民の思想・信条の自由を侵害するとして決議を無効とした2審・大阪高裁判決(07年8月)が確定した。
原告5人が属する「希望ケ丘自治会」は06年3月、募金や寄付金の徴収にあたる班長らの負担軽減のため、自治会費を年6000円から8000円に増額して募金や寄付金に充てる決議をした。
1審・大津地裁は06年11月、決議には必要性が認められると5人の訴えを退けたが、2審は「会員の意思に関係なく一律に募金や寄付を強制するもので、社会的に許容される限度を超える」と逆転判決を言い渡していた。【北村和巳】
毎日新聞 2008年4月4日 大阪朝刊」
E:東京新聞平成20年4月4日付夕刊10面
「自治会費で赤い羽根募金 徴収無効が確定 最高裁
赤い羽根共同募金や日赤への寄付を自治会決議に基づき会費徴収できるかどうかが争われた訴訟の上告審で最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は3日、自治会側の上告を退ける決定をした。「思想、信条の自由を侵害する」として決議を無効と認め反対住民側の逆転勝訴とした2審大阪高裁判決が確定した。
高裁判決によると、滋賀県甲賀市の希望ケ丘自治会は、募金や寄付金を集める「班長」らの負担軽減のため、2006年3月の総会で年会費を6000円から8000円に増額し、増額分を募金や寄付金に充てる決議をした。
これに反対する住民5人が、決議の無効を求め提訴。
1審大津地裁判決は、「思想信条への影響は抽象的。増額には必要性、合理性がある」と請求を棄却したが、
大阪高裁は「募金や寄付は任意でなされるべきだ。決議による徴収は事実上の強制で、社会的許容限度を超えている」と判断した。」
■最高裁の流れ■⇒大阪高裁判示が判例に
これらの記事ですべて
最高裁の判示がなく、
最高裁判所のHPでも未掲載ですので、
最高裁はどうやらほとんど説明することなく、簡単に自治会側の上告を退ける決定をした
だけのようです。そうなると、大阪高裁の判示が基準となっていくことになります。
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地域自治会が、その会の少数派会員の意に反して、募金や寄付金目的で強制的に徴収することを多数決で決定した場合、その少数派会員の思想・信条の自由を侵害するとして、その決議は違法となるのでしょうか? これは、「法人・団体の意思と、その構成員の人権(思想の自由)の衝突問題」といわれる問題の1つです。
(1) 法人・団体も、その団体活動は重要ですからその目的達成を図るために、人権共有主体性を肯定するのが通説判例です。もっとも、法人・団体は人(=自然人)と異なり、実体として物理的に存在するものではなく、便宜上、権利義務の主体とするための法律技術の産物にすぎません。そのために、法人等の権利主体性は、必然的にその構成員の権利との間の関係において問題になってくるのです(井上典之「判例にみる憲法実体論(26) 団体とその構成員の権利衝突」法学セミナー2007年5月号79頁)。
●この問題については、異なる事例ですが最高裁判例が幾つかでています。
すなわち、
①国労広島地本事件」(最判昭和50・11・28民集29巻10号1698頁)
・労働組合が選挙にあたってした社会党支持・カンパ徴収決議が争われた。
②南九州税理士会事件」(最判平成8・3・19民集50巻3号615頁)
・強制加入の公益法人である南九州税理士会が、税理士会法改正運動に要する特別資金に当てるため、会員から特別会費5000円を徴収する決議をした。
③群馬司法書士会事件」(最判平成14・4・25判例時報1785号31頁)
・群馬司法書士会が、阪神淡路大震災によって被災した兵庫県司法書士会に3000万円の復興支援拠出金を寄附するために会員から登記申請1件当たり50円の特別負担金を徴収する旨の総会決議をした。
このほか、金銭の強制徴収はありませんが、
弁護士会が国家秘密法に反対する決議を行ったことに対して一部会員が反対して決議無効を争った事件(最判平成10・3・13)もあります。
(税理士会、司法書士会、弁護士会は強制加入団体です)
(2) 団体の活動とその構成員の権利の調整については、「国労広島地本事件」(最判昭和50・11・28民集29巻10号1698頁)が比較考量論によることを示し、それがその後の判例に定着しています。すなわち、「国労広島地本事件」判決は、「問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要」との比較考量論によることを示しています。
現在、その比較考量を行う際の判断要素としては、次の点が挙げられています。
<1>団体の性質(法律上強制加入団体・事実上脱退の自由が大きく制約されている団体か、任意加入団体か)、
<2>団体の目的・活動内容(法令、定款などで定めている目的や活動内容に資するものか)
<3>思想・信条の内容(世界観、宗教観、政治的意見など人格形成に関連するか)、
<4>徴収の方法(意思形成手続が適正か)、
<5>徴収した金額(支出額が多いか)
ちなみに、
「南九州税理士会事件」では、「政党など(政治資金)規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に判断すべき事柄である」から、決議は目的の範囲外であるとして無効としました(<1><3>の要素を重視)。
これに対して、
「群馬司法書士会事件」では、司法書士会の活動範囲(司法書士法14条2項〔現52条2項〕)には、目的を「遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることも」含まれるとして拡大したうえで、拠出金の目的は、司法書士・司法書士会への「経済的支援を通じて司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とする趣旨」であるから、目的の範囲内であるとして決議を有効としました(<2>の要素を重視)。
(3) そうすると、
今回の赤い羽根共同募金の強制徴収は、この判断基準からすればどうなるでしょうか?
A:最高裁平成17年4月26日判決は、
<1>「自治会は権利能力なき社団であり、いわゆる強制加入団体でもなく、いつでも一方的な意思表示により退会できる」との判断を示していますから(地方自治法262条の2参照)、
地域自治会である「希望ケ丘自治会」もまた任意加入団体であることになります。
ただし、
自治会未加入者はごみステーションを利用できないなどの不利益を受け、脱退の自由を事実上制限されていたとのことですから、「事実上脱退の自由が大きく制約されている団体」であったという評価が可能です。
<2>同じく、最高裁平成17年4月26日判決によると「自治会は、会員相互の親睦を図ること、快適な環境の維持及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された」団体ですが、共同募金は地域の助け合いなのですから、「本件共同募金が大きく外れるものとも言えまい」(西村枝美「募金の自治会費化による思想の自由侵害」判例セレクト2007(憲法4)6頁)として、自治会の目的から外れていないともいえそうです。
<4>「希望ケ丘自治会」は、多数決原理により自ら決定したのですから、徴収方法は適正といえます。
<5>上乗せ額は年間2000円ですが、この「額は過大とは言い難い」(西村・前掲6頁)との評価もありますが、もう何年も前から、500円(赤い羽根募金で通常、一般家庭に要求されている額)でさえ苦しいと訴える世帯も増えているのも事実ですから、一般家庭にとっては過大な額でないと割り切ることはできません。
B:ここまでの判断からすると、
<1>の点からして決議を無効とする結論になりそうですが、「本件決議を無効とすることは難しい」((西村枝美・関西大学准教授「募金の自治会費化による思想の自由侵害」判例セレクト2007(憲法4)6頁)との理解も可能でしょう。
そうなると、この事案で最も問題となるのは、
<3>の要素だと思われます。すなわち、募金及び寄付金は、その性格上、各人の属性、社会的・経済的状況に応じて任意(好意)に行われるべきものですが、その性格をすべての募金及び寄付金で貫くべきかどうかです。一律の金額を定めた強制徴収は、各人の属性、社会的・経済的状況を無視し、任意性も無視するので、本質的に募金の性質と相矛盾するものですから、「強制募金」は「募金」に値するのかどうか、ということです。
■■「赤い羽根共同募金」の側は募金についての見解意見■■
ところで、
募金を受け取る「赤い羽根共同募金」の側は募金について、次のような見解を示しています。
「Q.毎年募金額はどれくらい集まるのですか?また、募金はどのように配分されるのですか?
A.昨年度の実績ですが、22,330,789円となっています。募金額の約90%は戸別募金となっていて、募金ボランティアとして協力いただいている地域の方々のおかげです。
配分先は福祉施設を中心として、各種福祉団体などに配分されます。県下全体を対象に配分計画するため、目標額が設定されているのが特色です。決して、募金額を競うための目標額ではありませんのでご了承ください。募金ボランティアさんには、共同募金は強制でないことをお願いしています。あくまでも、趣旨に賛同した方が任意で募金することになっています。」(「神奈川県平塚市・赤い羽根共同募金のお知らせ」)
「・なぜ募金なのに、目標額があるの?
「共同募金」は、寄付が集まってから、使い道を決める募金ではなく、事業を実施する上で、あらかじめ必要な額を検討し、募金を実施する前に、使いみちの計画を立てます。そして、この計画に必要な資金の総額が『目標額』になるわけです。
ただし、あくまで目標を達成するために提示していますが、強制ではなく任意の募金です。」(「社会福祉法人 茨城県共同募金会」)
このように、募金を受け取る側は、「共同募金は強制でないことをお願いしています。あくまでも、趣旨に賛同した方が任意で募金する」とか、「強制ではなく任意の募金です」として、任意であることを明示しているのですから、地域自治体が強制的に募金を徴収する必要はないはずです。言い換えれば、募金を強制徴収することは、任意でやってほしいという募金を受け取る側の意思に反するのです。そうすると、募金及び寄付金は、その性格上、各人の属性、社会的・経済的状況に応じて任意(好意)に行われるべきことを貫くべきです。
このようなことから、決議による募金徴収は事実上の強制で、社会的に許容される限度を超えており、公序良俗に反すると判断した大阪高裁平成19年8月24日判決、それを是認した最高裁平成20年4月3日決定は妥当であると考えます。
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この大阪高裁に対して、批判的な判例評釈があります。
「この事例において考慮すべきは、募金とは任意であるべきかどうか、という抽象的問題ではなかろう。もともと本件決議前より本件募金への協力は加入世帯のおよそ3割から5割であり、それらの世帯も本件募金すべてに協力していたわけでもない。それゆえ集金の負担感が増すという悪循環から離脱するために、会費化する手段を採用した自治会の現状も考えてみるべきであろう。この悪循環に高齢化が拍車をかけ、この、まじめに集金しようとする姿勢を前提とした声が総会では多数を占めた。ほかに悪循環を断ち切る方法はあるようにも思えるが、ここで、裁判所が本件決議を無効とすれば、本件決議の前提であるまじめな班長の負担は解消されまい。また、仮に本件決議が構成員の対応により実効性のないものとなるならば、再び総会により別の手法を考案するであろう。裁判所は、地域コミュニティの判断を尊重すべきように思われる。」(西村枝美・関西大学准教授「募金の自治会費化による思想の自由侵害」判例セレクト2007(憲法4)6頁)
「まじめに集金しようとする姿勢」自体は立派なものであり、一般論としては「裁判所は、地域コミュニティの判断を尊重」べきでしょう。目標額があるため、その目標を達成しようとすることから、集金の負担感を減らそうとする意図自体は理解できます。
しかし、
共同募金会自体が指摘しているように、目標額は「募金額を競うための目標額」ではないのですから、目標額達成のために強制徴収する必要はないのです。まじめに集金しようとするあまり、集金が自己目的化しているように思えます。
確かに、一般論としては
「裁判所は、地域コミュニティの判断を尊重」すべきです。しかし、集金した募金は、その地域自治会で最終的な使用目的を決定するのでなく、募金を受け取った側の自主的な判断で行い、必ずしもその地域に還元されるものではないのです。地域コミュニティと関わりの乏しい事柄について、しかも思想良心の自由を制約するものなのですから、地域コミュニティの判断を尊重す
る必要はないと思われます。
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大阪高裁判決について、
「第3 争点に対する当裁判所」の部分を全文引用しておきます。
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「第3 争点に対する当裁判所の判断
1 事実経過
証拠(括弧内に掲記)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被控訴人においては、歳入は入会金、会費、雑収入及び寄付金をもって充当し、会員は1世帯あたり1か月分として500円(年間6000円)の会費を納入するものとされ、会費の納入は会費の義務とされているが、納入しない会員に対する資格喪失等の明文の規定はない。(甲1、2、乙10)
(2) 被控訴人においては、従前、本件各会からの募金や寄付金の協力要請を受けて、毎年、丁目単位を標準として設けられた班の班長及び概ね20世帯を標準として設けられた組の組長が各会員の世帯を訪問して募金し、本件各会に対して、これを支出していた。
平成17年度の募金及び寄付金の実績は、全918世帯の合計額は136万3920円(本件各会ごとに13万9282円ないし22万9370円)、全918世帯中、募金及び寄付金の集金に応じた世帯は、本件各会ごとに約249世帯ないし約464世帯であり、集金に応じた世帯の中でも、本件各会によって募金及び寄付金の集金に応じたり応じなかったり区別する世帯もあった。また、集金の際、快くこれに応じる会員のある一方、協力を断る会員もおり、留守の会員も多かったため、集金に当たる班長や組長は負担に感じており、班長や組長への就任を避けるため、被控訴人を休会する会員もいた。(甲1、3、4、乙1)
(3) そこで、被控訴人の執行部は、班長や組長の負担を解消するため、平成17年3月20日開催の定期総会において、本件決議と同様、本件各会に対する募金及び寄付金を会費として徴収する議案を提出したが、賛成と反対の意見が対立して収拾できなくなり、継続審議とされた。(甲4、乙1)
そして、被控訴人の平成18年3月26日開催の定期総会において、代議員117名(組単位で選任され、原則として8世帯会員分で1名)のうち、87名が出席し(委任状による出席者20名を含む。)、賛成多数により本件決議がなされたが、反対者9名、保留者5名程度がいた。(甲1、3)
(4) 同年4月9日被控訴人の役員総務会(役員及び組長により構成される総会に次ぐ議決機関)が開催されたが、そこでは、本件決議を受けて、年会費8000円を4期に分けて3か月分2000円宛集金すること、会費増額に反対して支払を拒否する会員には、自治会離脱届の提出を求めること、従前行われていた募金や寄付金の集金業務は本年度より廃止することなどが確認された。(甲1、5)
(5) その後、本件決議及び上記役員総務会の確認に基づき、班長や組長が各世帯を訪問して、改定後の会費の集金を行った。しかし、控訴人らは、会費のうち募金及び寄付金に相当する年2000円の増額分を支払いたくないとして、これを除いた会費分(従前会費相当分)を支払おうとしたが、一部のみを受け取れないとして受取を拒絶された。被控訴人は、このような会員については、一部入金扱い又は不払い扱いとはせず、会費全額について保留の扱いとしている。(甲10、11の1、2、乙10、11)
2 ところで、本件決議に係る増加分の年会費2000円は、本件各会への募金及び寄付金に充てるために集金され、集金後その年度内に本件各会に募金及び寄付金として支払われることが予定されていたものである。しかし、募金及び寄付金は、その性格からして、本来これを受け取る団体等やその使途いかんを問わず、すべて任意に行われるべきものであり、何人もこれを強制されるべきものではない。上記1(2)のとおり、本件決議がなされる以前の被控訴人の会員の本件各会に対する募金及び寄付金に対する態度は一様ではなく、本件各会ごとに見ると、集金に協力した世帯は全世帯の半数程度以下であり、しかも本件各会ごとに募金及び寄付金を拠出するかどうか対応を異にする会員もいたことが窺われる。このように、従前募金及び寄付金の集金に協力しない会員も多く、本件各会ごとに態度を異にする会員がいる中で、班長や組長の集金の負担の解消を理由に、これを会費化して一律に協力を求めようとすること自体、被控訴人の団体の性格からして、様々な価値観を有する会員が存在することが予想されるのに、これを無視するものである以上、募金及び寄付金の趣旨にも反するものといわざるを得ない。また、少額とはいえ、経済状態によっては、義務的な会費はともかく、募金及び寄付金には一切応じない、応じられない会員がいることも容易に想像することができるところである。学校後援会費については、会員の子弟が通学しているかどうかによって、協力の有無及び程度が当然異なるものと考えられる。募金及び寄付金に応じるかどうか、どのような団体等又は使途について応じるかは、各人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるものであり、仮にこれを受ける団体等が公共的なものであっても、これに応じない会員がいることは当然考えられるから、会員の募金及び寄付金に対する態度、決定は十分尊重されなければならない。
したがって、そのような会員の態度、決定を十分尊重せず、募金及び寄付金の集金にあたり、その支払を事実上強制するような場合には、思想、信条の自由の侵害の問題が生じ得る。もっとも、思想、信条の自由について規定する憲法19条は、私人間の問題に当然適用されるものとは解されないが、上記事実上の強制の態様等からして、これが社会的に許容される限度を超えるときには、思想、信条の自由を侵害するものとして、民法90条の公序良俗違反としてその効力を否定される場合があり得るというべきである。
本件決議は、本件各会に対する募金及び寄付金を一括して一律に会費として徴収し、その支払をしようとするものであるから、これが強制を伴うときは、会員に対し、募金及び寄付金に対する任意の意思決定の機会を奪うものとなる。なお、被控訴人は、本件各会に対する募金及び寄付金を会費の一部として募金しようとするものであるが、本件決議に至る経緯からして、被控訴人の本件各会に対する募金及び寄付金の支出と会員からの集金とは、その名目にかかわらず、その関係は直接的かつ具体的であるということができる。
次に、被控訴人は、前記第2の2(2)のとおり、強制加入団体ではないものの、対象区域内の全世帯の約88.6パーセント、939世帯が加入する地縁団体であり、その活動は、市等の公共機関からの配布物の配布、災害時等の協力、清掃、防犯、文化等の各種行事、集会所の提供等極めて広範囲に及んでおり、地域住民が日常生活を送る上において欠かせない存在であること、被控訴人が、平成16年5月ころ、自治会未加入者に対しては、①甲南町からの配布物を配布しない、②災害、不幸などがあった場合、協力は一切しない、③今後新たに設置するごみ集積所やごみステーションを利用することはできないという対応をすることを三役会議で決定していること(甲1、3、6、乙2)からすると、会員の脱退の自由は事実上制限されているものといわざるを得ない。
そして、被控訴人において、本件決議に基づき、募金及び寄付金を一律に会費として徴収するときは、これが会員の義務とされていることからして、これを納付しなければ強制的に履行させられたり、不納付を続ければ、被控訴人からの脱退を余儀なくされるおそれがあるというべきである。これに関し、証拠(乙10、11)には、会費の不納付者に対しても、脱退を求めず、会員として取り扱っている旨の記載がある。しかし、上記証拠によっても、会費については、不納付扱いではなく保留扱いとしてるのであって、いわば徴収の猶予をしているにすぎないから、現在このような扱いがなされているからといって、将来も(裁判終了後も)脱退を余儀なくされるおそれがないとはいえない。
そうすると、本件決議に基づく増額会費名目の募金及び寄付金の徴収は、募金及び寄付金に応じるか否か、どの団体等になすべきか等について、会員の任意の態度、決定を十分に尊重すべきであるにもかかわらず、会員の生活上不可欠な存在である地縁団体により、会員の意思、決定とは関係なく一律に、事実上の強制をもってなされるものであり、その強制は社会的に許容される限度を超えるものというべきである。
したがって、このような内容を有する本件決議は、被控訴人の会員の思想、信条の自由を侵害するものであって、公序良俗に反し無効というべきである。
3 結論
以上の次第で、控訴人らの本訴請求中、本件決議の無効確認を求める部分は理由があり、そして、本件決議が無効である以上、控訴人らの会費の支払義務が年6000円を超えて存在しないものというべきであるから、その確認を求める部分も理由があり、いずれも認容されるべきである。なお、上記無効確認を求める部分が、控訴人らと被控訴人との間のみにとどまらず、法律関係を画一的に処理する必要があるとして、その効力を対世効に及ぼす判決を求めるものであるとしても、控訴人らの被控訴人に対する会費の支払債務が年6000円を超えて存在しないことの確認を求める部分がこれに当然に含まれるものともいえないから、後者について前者と併せて確認を求める利益はあるものと解するのが相当である。
よって、これと結論を異にする原判決を取り消し、控訴人らの上記請求をいずれも認容することとし、主文のとおり判決する。」
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読んでみると、かなり強制的な要素が強いことが分かります。
募金や寄付金額と比較して、募金を出さないことに対する不利益が大きいので、
募金や寄付金を強制するとバランス悪いと理解できそうです。
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